2026-04-03
HaiPress

イラスト:なかむらるみ

東武鉄道亀戸線「小村井駅」前の踏切。
総武線の亀戸駅の築堤の下にホームが見える東武亀戸線は、昔風のローカル線の雰囲気が漂っていて、たまに乗ってみたくなる。亀戸水神、東あずま……と続く駅の名も田舎っぽくていい。その3つ目の小村井(おむらい)の町でオムライスをいただこう、というのが今回のテーマだ。
小村井というのはいまの町名にはないけれど、明治、大正の地図を見ると駅の南側に小村井という小字(こあざ)の表示がある。その時代の地図には中居堀という水路が通っている駅の西側の道を南下していくと、やがて香取神社がある。境内に小さな梅園が設けられているが、かつてはもう少し規模の広かったこの梅園が江戸の頃から景勝地として知られていたらしい。少し南方に行くと、ヤマトタケルとオトタチバナヒメの伝説が根づく吾嬬神社がある。

香取神社の「香梅園」。梅の花がまばらに咲きはじめていた取材時(3月上旬)の様子。境内に85種・120本の梅が植えられている。
香取神社の門前の曳舟たから通りという道は、所々くねっとしていていかにも古道風情だが、明治の頃の地図でもこの道ぞいには家が集まっているから、小村井の元町といってもいいだろう(町名はオトタチバナヒメにちなんで立花と付けられている)。訪れる「キッチン カメヤ」というレストランもこの一角の店だが、その隣に「かめぱん 立花店」という人気のパン屋さんがある。ここで、明太フランスパンなどを買って、店内に飾られた創業の頃の写真(昭和27年、とある)に目をやると、古風なブリキの看板に「パン 亀屋」と記されている。
おや? もしや隣りのレストランとパン屋は同じ家筋なのかもしれない。
「かめぱん」(立花店と付いているが、ここが昭和27年の創業店のようだ)の店はイマ風に改築されていたが、「キッチン カメヤ」の方はかなり年季が感じられる。表側から見ると〈Kitchen KAMEYA〉の英語表記が目につく看板建築の店屋だが、傍らの空地越しに側面を眺めると、2階建てのモルタルアパートのような建物だ。
1階の奥行きのある店内には、単独の女性客が2、3人、それからどことなく下町の子会社の営業マンっぽい男……どの人もなじみの常連さん風だ。ウエートレスの女の子が制服を着ているのも古い洋食屋のムードで好ましい。そして、ジャズのインストがゆるいボリュームで流れている。

「小村井飯(オムライス)」(1150円)。みそ汁とサラダ付きで、デミグラスソースかケッチャプを選べる。
ハンバーグ、カツカレー、メンチカツ……おいしそうなメニューの張り紙が壁に出ているが、頭でも書いたように今回はオムライスを目当てにしてきた。この店は地名のシャレを意識して、「小村井飯」という和名も付けている。
丸い皿に盛りつけられたオムライスはケチャップライスの上に半熟食感のオム玉子が載って、そのうえから茶色いデミグラスソースがかかっている(ケチャップのタイプもある)。

吊るし看板でおすすめしていた旬の味覚「エビフライ&カキフライ」(1180円)。季節限定のためじき販売終了。
「もとはオムハヤシっていって出していたんですよ」と、店の代表でありシェフの佐伯好隆さんから伺ったけれど、なるほど、確かにオムハヤシ系のオムライスという感じだ。もっとも、デミグラスソースはハヤシの時代とレシピが異なるようだ。
ちなみに、ここが「キッチン カメヤ」として開業したのは平成16年(2004年)だというが、やはり、お隣のパン屋さんとは関係があった。
「パン屋をやっているのは兄貴でして、もとは祖父がパン屋を始めたんですよ。」
そして、細かい権利関係は定かではないけれど、「キッチン カメヤ」の建物は長らくアパートとして使われていたらしい。
店を出て、脇の路地に入り込んでいくと、この辺は金属や自動車部品の町工場が多い。金属というと、江戸の頃から通貨を鋳造する銭座が多かったらしく、とある工場の入り口に銭座の歴史地図と古銭が展示されていた。曲折した路地を歩き回っていると、低い家並や道の先にスーッと東京スカイツリーが入りこんでくるのも、小村井界隈の散歩景色の特徴だ。
◆◆◆
住所東京都墨田区立花2-1-11
電話03-3619-0547
営業時間11:00~15:00、17:00~21:30
定休日月曜
※掲載したお店や施設の臨時休業および年末年始・ゴールデンウイーク・お盆休みは営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。
※2026年4月3日時点での情報です。
※料金は原則的に税込み金額表示です。
<関連記事>
奥浅草でスパゲッティ・ミカド『カルボ』
あの町、このメシで訪れたお店MAP
泉麻人コラムニスト

1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『「冗談画報」という楽しい番組があった』(三賢社) 『黄金の1980年代コラム』(三賢社)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。
なかむらるみイラストレーター

1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に、月刊たくさんのふしぎ『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)、『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。泉さんの本では『東京ふつうの喫茶店』『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京 のらりくらりバス遊覧』『続・大東京 のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などでイラストを担当している。
https://www.tsumamu.net/
目黒区の情報はこちら
★目黒区のデータを集めた記事とニュースを配信しています。
ぐるり東京 TOPに戻る